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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
忘年会の酔っ払いで賑わう通りを、前を見ずに走り出すことの恐ろしさ。
誰かにぶつかって、怪我でもしたら、怪我でもさせたら――。
「ひゃああ!」
「杉田!?」
悲鳴と共に、花が、舞った。
慌てて駆けつけると、人々が円を描くかのように見守るその中心に、花園が、あった。
「大丈夫? 怪我してない? 前見て歩かなきゃ危ないよ?」
「すみません、すみません、ごめんなさい」
「わっ、月野さん、血、血! 頭から、血が!」
送別会でもらったらしい花束が散乱する中、クソダサいダウンジャケットを着て着膨れた俺のセフレと、俺のバカな同級生が、抱き合って座り込んでいた。
俺のセフレは会社の人に頭を指差され、「あ、ほんとだ」とヘラヘラ笑った。頭を撫でた手は、真っ赤だ。
「……あかり」
「あれ、翔吾くん? 偶然! 同窓会ってこの近くだったの?」
「ごめ、なさっ、すみま、せっ」
誰かが救急車を呼んでいる。酔っ払ったあかりは「痛くないよ?」と笑い、杉田は泣きじゃくりながら、謝罪の言葉を口にする。
何だ、この、カオスは。
「なんで、アンゴラのコート、着ないの」
へたり込んで吐き出された俺の言葉は、たぶん、誰にも聞こえなかったはずだ。