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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「月野さん、私を責めなかった……私が悪いのに」
「そういう人なんだよ」
俺がケータイを壊したときも、そうだった。俺のことを責めなかった。
今回は自分が怪我をしたのに、救急車でも震える杉田を気遣って、毛布をかけてあげていた。
そういう人なんだ、あかりは。
「桜井くんは月野さんのことが……好きなの?」
「相手にされてないけどね」
「え?」
「俺の片想い。だから、杉田の気持ちには応えられない。悪いけど」
悪いけど。今は誰も、あかり以上に好きになれそうにない。
「はーい、ありがとうございましたー」
頭に包帯をぐるぐる巻いたあかりがドアをスライドさせて診察室から出てくる。見るからに痛々しそうなのに、声は明るく、俺たちを見て笑顔を浮かべる。
「あかり、大丈夫?」
「うん、大丈夫。頭もかすり傷で血ももう止まったし、脳に異常もないって。良かったぁ」
はぁ、と大きく溜め息を吐き出す。良かった……本当に、良かった。
今、あかりを抱きしめたくて抱きしめたくて仕方がないけど、さすがに杉田の前でそれはできないと自制する。本当はキスまでしたいけど、我慢だ、我慢。
「翔吾くん、心配かけてごめんねぇ。あ、杉田さんも。もう大丈夫ですよ」
「本当にすみませんでした!」
ペコペコと頭を下げる杉田に、笑顔で「大丈夫」を繰り返すあかり。何だか、不思議な光景だ。
何しろ、この中の誰一人として、好意の矢印が交わっていない。片想いの軍団だ。とてもおかしな光景だ。