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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「あー! 杉田! 翔吾!」
あ、もう一人、矢印が増えた。
荷物を持って、洋介が飛んでくる。看護師さんに「走らないでください」と叱られて、早歩きで。
「なに、どうしたの!? お前ら、いきなりいなくなるから!」
「杉田が俺の知り合いにぶつかって怪我させちゃって」
「え、大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ」
洋介があかりを見て、「歳上のお姉さん!?」と驚く。あかりは「あ、はい」と頷く。たぶん、両者とも意味が違うけど、訂正はしない。
杉田は洋介から荷物を受け取って、ついでに俺のリュックからクマを抜き取る。そして、財布の中身を見て頷く。
「月野さんの治療費、私が支払います」
「杉田さん、それは必要ありませんよ。私の不注意ですし」
「いや、不注意なら杉田のほうが酷い。ちゃんと前を見ていなかったんだから」
俺の言葉に、あかりがムッとしている。ほんと、他人に甘いんだから。
「それなら私だって同じだよ。ちゃんと前見て歩いていなかったんだもん」
「杉田は前を見ずに走って、あかりは歩いていた。どっちが危険かはわかるよね。実際、あかりは怪我をしたんだから」
「でも、大丈夫だったよ!」
「結果的には、でしょ。俺は治療費だけでなく慰謝料も必要だと思っているくらいだよ」
「慰謝料? そんなもの、いらないよ」
どちらも引かない。
あかりは、杉田のことを知らない。知らなさすぎる。でも、杉田の悪事を伝えるつもりもない。それは俺と杉田の問題だ。
「あかり、お願いだから」
「やだ、聞かない」
「あかりのわからず屋!」
「翔吾くんのバカ!」