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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)

 二人でバチバチと火花を散らしていると、不意に笑い声が聞こえた。見ると、洋介と杉田がゲラゲラ笑っている。お腹を抱えて笑っている。
 そんなにおかしかったか? おかしいところがあったか?
 あかりと顔を見合わせて、きょとんとする。意味がわからない。
「病院ではお静かに!」と看護師さんに叱られるまで、二人は涙を浮かべながら笑っていた。

「ふふ……治療費は、支払わせてください。私、月野さんの知らないところで酷いことをしていたので、償わせてください」
「……でも」
「素直に聞いて、あかり」

 ムゥと非難の視線を俺に寄越したあと、あかりはようやく杉田の申し出を受け入れることになる。「お金ならあるのに」とブツブツ言っていたけど、ここにいる全員、たぶん、あかりよりは金持ちだ。

「洋介は杉田を送っていって。俺はあかりを送っていくから」

 杉田とあかりが窓口に行っている間に、洋介に指示を出す。洋介は一瞬戸惑いの表情を浮かべたあと、頷いた。

「あかり、さんが、例の歳上のお姉さんなんだよな?」
「ん。かわいいだろ」
「……杉田のほうがかわいい」

 それには賛同しかねるな。あかりのほうが絶対かわいくて綺麗だ。杉田のほうが上だなんてことは、絶対にない。

「惚れた弱味だな、お互い。杉田、フラれたばかりだから、慰めてあげろよ」
「え? あ、うん、わかった」

 洋介が本当にわかっているのか、俺にはわからないけど。弱っている女につけ入るなら、今しかない。今がベストタイミング。
 頑張ってくれ、洋介。ほんと、頑張ってくれ。

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