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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)

「同窓会、ごめんね?」

 最寄りのコンビニでタクシーを降り、寒空の下、街灯の少ない道を一緒に歩く。さすがに好きな女を一人で家に帰らせることはしたくなかった。

「いいよ。つまんないって言ったでしょ。頭はどう? 痛む?」
「大丈夫。痛み止めももらったし、明日は夕方から予定があるだけだから、ゆっくりできるし」

 明日は土曜。大学も休み。
 夕方からの予定、とやらは、俺以外のセフレに会う予定なんだろうと簡単に予想がつく。……行かせたくないな。
 手を繋ごうとして、やめる。俺の邪な気持ちに気づかれたくはない。
 しばらく他愛のない話をしながら歩き、あかりが「ここでいいよ」と立ち止まったのは、三階建ての小さなアパート。一人暮らし向けの物件だ。

「部屋まで送る」
「でも、悪いよ」
「いいよ。あかりが心配だから」

 悪いことを考えているのは、俺だから。
 階段で二階まで上がり、二〇三号室までついていく。あかりは鍵を開けて、じっと俺を見上げた。

「翔吾くん」
「なに、あかり」
「……帰るの?」
「まさか」

 ここで帰る男がいたら、顔を見てみたい。好きな女の部屋の前まで来て、「はい、さよなら」なんて器用な真似、俺にはできない。
 月明かりの下、あかりはフッと笑みを浮かべて、ドアを大きく開けた。

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