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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「どうぞ」
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、あかりが鍵を閉めたのを確認して、着膨れた体を抱きしめる。抱き心地は最悪だ。アンゴラのコートのほうが絶対いいのに。
「あかり、泊まりたい」
「……いいよ」
「抱きたい」
「ん、いいよ」
「中に出したい」
「出して」
触れた唇は冷たい。けれど、お互いの舌を求め合ううち、唇も頬も熱くなってくる。
ここでするの?
ベッドまで我慢できない。イヤ?
大丈夫。イヤじゃないよ。寒いけど。
囁き合い、キスをしながら、あかりをゆっくり廊下に横たえる。包帯を巻いた頭の下に、俺のジャケットを敷いておく。
オレンジ色の玄関の明かりが、二人をぼんやり照らす。キスだけで上気した頬が、かわいい。
「あかり、好き」
好きだ。本当に、好きだ。
あかりの脳に障害が残ったら、俺が責任を取るつもりでいた。会社は健吾に任せて、俺は静かな場所であかりと二人で暮らそう、と。そんな邪な夢を見た。
だから、あかりの「大丈夫」に、俺は少し失望したのだ。問題がないことを素直に喜べなかった。最低だ。
だから、理解したのだ。
俺の本当の気持ちを。