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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)

「わぁ、スゴい! 何、この部屋!?」
「スイートルーム」
「広い! キレイ! 高そう!」

 広くて綺麗だから高いんだけどね。
 部屋に入った瞬間に抱きついてあかりにキスをしようとしたら、逃げられた。
 部屋のドアを開けながら、「スゴい」を繰り返すあかりを見て、二人分のコートとジャケットをクローゼットにしまい、荷物を置く。

 ディナーでは、やはり夜景など一切見ないあかりが「美味しい」を繰り返していた。相変わらず少食で、結局デザートを食べる前に満腹になってしまって悔しがっていた。
 それでも、一口二口食べるうちに皿が綺麗になっていたのだから、別腹というものがあるのだろう。

「お風呂がスゴいよ、翔吾くん!」
「あとで一緒に入ろう」
「ベッドはどっちを使うの?」
「どっちを使ってもいいよ」

 浴室はガラス張りのジャグジーバス。ベッドルームは二つ。窓は大きく、近くには他に高層ビルがないから、夜景が綺麗に見える。
 ネクタイを緩め、ボタンを外す。そして、うろうろ動き回るオレンジ色をようやく腕の中に閉じ込める。

「ひゃ、翔吾くん?」
「あかりは語彙力が貧弱だなぁ」
「そう?」
「美味しいとスゴいしか言っていないよ」

 腕の中で俺を見上げて、あかりは「ほんとだ」と笑う。まぁ、レポーター顔負けの食レポを披露されても驚くけど。

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