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月光の誘惑《番外編》
第3章 月に臨み、月を望む。

 今度は俺が驚く番だった。直球を、見事に打ち返してきた。しかも、ピッチャー返し。

「参ったな」

 どうしよう。それでも、嬉しい。
 俺はまんまと捕球してしまった。
 彼女の提案はアウトなのに、嬉しい。
 世間的にはアウトでも、俺にとってはセーフだ。
 彼女がそばで笑ってくれるなら、何だっていい。その笑顔を俺に向けてくれるなら、何だって。

「あなたの望む形で構いません。名前と連絡先を教えてくれませんか。私は湯川望、外科医です」

 手帳とペンを差し出し、記入してもらう。
 名前は……月野あかり、月野さん。かわいい名前、綺麗な字だ。

 ブレンドコーヒーを飲みながらふと外を見ると、先程までちらほら降っていた雪が、一気に量を増し、風に煽られて吹雪いている様子が見えた。寒そうだ。今夜は冷えるだろう。

「……また、雪が降ってきましたね」

 俺の言葉に月野さんが顔を上げ、心底嫌そうに眉間にしわを寄せる。

「寒いのは苦手です」

 モコモコのジャケットから、何となく想像はしていた。お洒落より防寒対策が重要なんだな、と。

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