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月光の誘惑《番外編》
第3章 月に臨み、月を望む。

「月野さん」
「あかり、でいいですよ」
見つめられると、ダメだ。ただの雄に成り下がってしまいたくなる。
絵の中の女が、俺の目の前で喋っている。俺を見てくれている。本人ではないと知りつつも、体は反応する。
「……今夜、というのは早すぎますか?」
あぁ、もう! 何を口走っているんだ、俺は!
口にした瞬間に、後悔する。
どれだけがっついているんだ、俺は!
絶対呆れられているぞと思いながらあかりさんを見ると、笑っていた。バカにしたような笑みではなく、本当に面白いものを見たときのように、屈託なく。
「暖めてくださいますか?」
イエスという意味だと、すぐに気づく。
本当に? 今夜? いいんですか?
「もちろん!」
「では、今夜。連絡をお待ちしています」
立ち上がったあかりさんに握手を求めたのは、なぜだったか。
たぶん、この出会いが夢ではないと実感したかったんだ。触れて、感触を確かめて、幻ではないと思いたかったんだ。
握られた手は、冷たく、細い。柔らかな、女の人の手、だった。
その手を引いて、今すぐ抱きしめてしまいたい。もっと奥まで触れてみたい。その柔らかな体を、もっと実感したい。
そんな妄想をしてしまうくらい、愛しさが込み上げてきた。
そう、愛しさだった。間違いなく。
「よろしく、あかり」
「こちらこそ。湯川先生」
俺は、長年待ち焦がれた奇跡を、今日ようやく手に入れたのだ。

