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月光の誘惑《番外編》
第1章 月下の桜(一)

「俺は桜井翔吾。大学生です」
「私は派遣社員です。あれ、歳下?」
「俺は二十歳」
「……二十四歳。私のほうが歳上なのに、ほんとご迷惑をおかけして、すみません」
ペコペコと頭を下げながら、あかりさんはアプリの説明を聞く。
真面目な性格のようで、メモを取り、わからないことはすぐに聞いてくる。優秀な生徒だ。
ウーロン茶とビールで乾杯して、適当に注文する。あかりさんは特に好き嫌いはないようだ。
スマートフォンの使い方を教えているのだと、ニヤニヤ笑う馴染みの従業員に説明する。あれで納得してくれるといいんだけど。
「あ、メッセージアプリは連絡先を登録しておいたほうがわかりやすいから、登録しようか?」
「じゃあ、赤外線?」
「ついてないね、赤外線」
「う。じゃあ、手打ちにする……フリック? 苦手だなぁ」
俺の連絡先を教えて入力させる。慣れだ、慣れ。
いつの間にか、敬語もなくなっている。少しずつ、距離が縮まっている、と思いたい。
そして、ゆっくり入力し終えたあかりさんが、俺に電話をかける。お揃いの青のスマートフォンがヴーと揺れ、着信を知らせてくる。よし、連絡先ゲット。
あとはメッセージアプリに登録をして、同期をして、ようやく使えるようになる。
「翔吾くん翔吾くん……あ、あった! さくらい、っていうのが翔吾くん?」
「そうだよ」
先にメッセージを送ると、聞き慣れた通知音がして、ポップアップが表示される。
「えーと、『はじめまして』? はじめまして!」
……もっと、その笑顔を見たい。
アクセサリーの類いは見受けられない。ネックレスも指輪もピアスもない。男の影はない、と思いたい。

