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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
フェルメールの青と言われる印象的な青を用いて写実的に描かれた美しく静謐な人物画、風景画が光を見つめていた。
光は縣のセンスの良さに改めて敬服すると共に、この絵に象徴されるものと縣の共通点をふと感じた。
静謐で美しいが、どこか遠く手の届かない世界を感じさせる…。
「…私の人生はこの絵のようだった。…美しいものに囲まれ、満たされ、静かに誰とも争わず…ひたすらに澄んだ光に満ちたものだった…」
縣の温かな手が光の肩に置かれる。
光は彼を振り返る。
縣の瞳の中には懐かしいような切ないような感情が溢れていた。
「…私の祖父は炭鉱夫だったと前に言ったね。…その祖父から私は英才教育を施された。貧しい家に生まれた祖父は尋常小学すらまともに通えなかった。だから文字を読むのが苦手でね。会社の株主総会などで文書を読む時は私が原稿に全てカナを打ってあげたんだ」
縣が黒檀のキャビネットの中のポートレートに目を移す。
祖父に抱かれた縣の幼少期の写真だ。
「可愛いわ、縣さん」
縣は嬉しそうに光を後ろから抱きしめる。
「…祖父は私を本当に可愛がってくれた。…礼也は賢いのう…、礼也は頭も良くて、男前で、運動も出来て、友達もたくさんおって、爺ちゃんの自慢の孫たい!…てね」
縣は祖父と自分のポートレートを見つめながら、しみじみと呟く。
「…子供心に私は分かっていた。私は祖父がなりたかった少年なのだと。貧しい少年時代に、憧れていた世界で生きている少年そのものなのだと。
私は祖父を尊敬していたし、大好きだった。
だから、私は祖父の夢の世界で生きて行こうと漠然と思ったのだ。
美しく静かな満たされた世界で…生々しいものや醜いものを排除したひたすらに美しい世界の中で…」
縣はゆっくりと光を自分の方に向け、その白絹のような頬を愛しげに触れる。
「…梨央さんと婚約解消した時もそうだ。本当に梨央さんを愛しているなら、奪うこともできたはずだ。しかし私はしなかった。…梨央さんを苦しめたくないということもあったが、本当は…私が自分の美しい世界を壊したくなかっただけなのだ。
…梨央さんと私の想い出も、全ては美しい世界の中で完結させたかったのだ」
だが…と、縣は光を引き寄せる。
目の前に光がいる奇跡に、縣は神に感謝する。
「…君だけは違った。…君だけは私の美しい世界を壊してでも、取り戻したい唯一の人だったのだ」
光は縣のセンスの良さに改めて敬服すると共に、この絵に象徴されるものと縣の共通点をふと感じた。
静謐で美しいが、どこか遠く手の届かない世界を感じさせる…。
「…私の人生はこの絵のようだった。…美しいものに囲まれ、満たされ、静かに誰とも争わず…ひたすらに澄んだ光に満ちたものだった…」
縣の温かな手が光の肩に置かれる。
光は彼を振り返る。
縣の瞳の中には懐かしいような切ないような感情が溢れていた。
「…私の祖父は炭鉱夫だったと前に言ったね。…その祖父から私は英才教育を施された。貧しい家に生まれた祖父は尋常小学すらまともに通えなかった。だから文字を読むのが苦手でね。会社の株主総会などで文書を読む時は私が原稿に全てカナを打ってあげたんだ」
縣が黒檀のキャビネットの中のポートレートに目を移す。
祖父に抱かれた縣の幼少期の写真だ。
「可愛いわ、縣さん」
縣は嬉しそうに光を後ろから抱きしめる。
「…祖父は私を本当に可愛がってくれた。…礼也は賢いのう…、礼也は頭も良くて、男前で、運動も出来て、友達もたくさんおって、爺ちゃんの自慢の孫たい!…てね」
縣は祖父と自分のポートレートを見つめながら、しみじみと呟く。
「…子供心に私は分かっていた。私は祖父がなりたかった少年なのだと。貧しい少年時代に、憧れていた世界で生きている少年そのものなのだと。
私は祖父を尊敬していたし、大好きだった。
だから、私は祖父の夢の世界で生きて行こうと漠然と思ったのだ。
美しく静かな満たされた世界で…生々しいものや醜いものを排除したひたすらに美しい世界の中で…」
縣はゆっくりと光を自分の方に向け、その白絹のような頬を愛しげに触れる。
「…梨央さんと婚約解消した時もそうだ。本当に梨央さんを愛しているなら、奪うこともできたはずだ。しかし私はしなかった。…梨央さんを苦しめたくないということもあったが、本当は…私が自分の美しい世界を壊したくなかっただけなのだ。
…梨央さんと私の想い出も、全ては美しい世界の中で完結させたかったのだ」
だが…と、縣は光を引き寄せる。
目の前に光がいる奇跡に、縣は神に感謝する。
「…君だけは違った。…君だけは私の美しい世界を壊してでも、取り戻したい唯一の人だったのだ」