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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
縣は静かに麻宮侯爵の前に座ると、穏やかに尋ねた。
「…侯爵は今宵、なぜロッシュフォール家の夜会に?」
「…今、我が社はフランス家具の輸入業に力を入れているのだ。取引先の社長がロッシュフォール侯爵夫人と懇意にしていて、宜しければと誘われたのだよ。ロッシュフォールのご子息は日本の元大名の姫君と結婚したので、私が行けば夫人も喜ばれるのではないかと」
麻宮侯爵は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
縣はにこやかに頷く。
「麻宮商事は今や飛ぶ鳥落とす勢いです。私も常に麻宮侯爵の経営手腕をお手本に欧州での仕事を展開しています」
ちらりと縣を見遣り満更でもないように足を組み替える。
「…君はこの度、フランスワインの輸入に乗り出したのだそうだな。…なかなか先見の明があると感心していたところだ」
「ありがとうございます。侯爵にお褒めいただくと自信が湧きます」
縣は人好きする魅惑的な眼で笑いかけた。
麻宮侯爵は咳払いしながら威厳を保とうとする。
「それはそれだ。…縣男爵、光を今まで保護してくれたことにはお礼を言おう。かかった費用も全額お支払いする」
「いりませんよ、そのようなお金は」
「…光の自由にならないように預金を引き上げればすぐに私に泣きついて来ると思ったのだ。所詮、光はお姫様育ちだからな。しかし…案外図太くて一向に根を上げようとしない。挙句の果ては二人で姿を眩まし駆け落ちしてしまった!…全く!あの強情娘が!」
忌々しく呟く麻宮侯爵はどこか光の破天荒さに困り果てているようにも見え、縣は思わず笑ってしまう。
「…なんだね?」
麻宮侯爵がジロリと縣を睨んだ。
「失礼。麻宮侯爵は実は光さんをとても心配されているようにお見受けしたもので…。わざわざパリにいらしたのも、もしや光さんを捜される為だったのではありませんか?」
麻宮侯爵は憮然としたように答える。
「…娘を心配しない親がどこにいる」
「ごもっともです」
「…光は私に良く似ているのだ。顔は母親似だが、あの激しい気性や物怖じしない性格、勝気で負けず嫌いで…私が言うのも可笑しいがとても賢くて…私は男の子に恵まれなかったからな。…光が男だったらと何度思ったことか…」
しみじみと溜息を吐く麻宮侯爵に先ほどの怒りや勢いはなかった。
縣は優しく話しかけた。
「…光さんをとても可愛がっておられたのですね…」
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