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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
案内された客間に入ると執事のセバスチャンは端正な表情を崩さずに
「キャビネットのお酒などはご自由にお飲みください。使用人などにはこちらのお部屋に近づかないように指示を出しておきますので、給仕にはまいりません」
と告げた。
「ありがとう。セバスチャン。気遣いに感謝するよ」
セバスチャンは折り目正しく一礼すると、部屋を辞した。
麻宮侯爵は燕尾服の内ポケットからキューバ産の葉巻を取り出すと、苛々したように火をつけた。
そして、革張りのソファーに深々と座ると畳み掛けるように縣に質問を繰り出した。
「なぜ君が光を保護しているのだね?君と光はそんなに親しかったのかね?」
縣は優雅な仕草でキャビネットからブランデーを取り出すと、バカラのグラスに注ぐ。
「私が後見人をしております北白川梨央さんを介して、光さんが15歳の頃から存じ上げております。
軽井沢の私の別荘にも梨央さんとご一緒に遊びに来ていただいたこともありました」
フッと麻宮侯爵は冷たく笑う。
「…君は梨央とは婚約解消したと聞いたが?」
縣は少しも表情を変えずにわざと苦笑して見せ
「はい。誠に私の不徳の致すところです」
と、ブランデーグラスを差し出した。
「それより、なぜ君が光を?」
「たまたまパリの街を歩いていたら、光さんに偶然お会いしたのです。光さんはかなり質素な格好をしておられたので、私は不審に思い訳を伺いました。
すると…恋人との関係を麻宮侯爵に反対され、引き離されそうになったので駆け落ち同然に逃げ出したと…。光さんが住んでいらしたアパルトマンの界隈は悪名高きバルベス街でした。移民が多く住み、物騒な事件が頻発する街と聞き、私はとてもそのような場所に光さんを住まわす訳にはいかないと思い、私が間借りしているジュリアンの別邸に彼女を呼び寄せました。今は翻訳や通訳など私の仕事を手伝っていただいています」
憮然としたまま麻宮侯爵は尋ねる。
「…フランス人の恋人は?」
「彼は今、プロバンス貴族の令嬢の絵の家庭教師をしています。光さんとはご一緒に住んでいません。彼の絵も少しずつ評価されているそうですよ」
「彼の絵などどうでもいい。光の夫となるべく相手は、私が決めるのだ!私は外国人との結婚など絶対に認めん!」
麻宮侯爵は半ば怒鳴るように言い放つと、バカラのグラスをイタリア大理石のテーブルに乱暴に置いた。
「キャビネットのお酒などはご自由にお飲みください。使用人などにはこちらのお部屋に近づかないように指示を出しておきますので、給仕にはまいりません」
と告げた。
「ありがとう。セバスチャン。気遣いに感謝するよ」
セバスチャンは折り目正しく一礼すると、部屋を辞した。
麻宮侯爵は燕尾服の内ポケットからキューバ産の葉巻を取り出すと、苛々したように火をつけた。
そして、革張りのソファーに深々と座ると畳み掛けるように縣に質問を繰り出した。
「なぜ君が光を保護しているのだね?君と光はそんなに親しかったのかね?」
縣は優雅な仕草でキャビネットからブランデーを取り出すと、バカラのグラスに注ぐ。
「私が後見人をしております北白川梨央さんを介して、光さんが15歳の頃から存じ上げております。
軽井沢の私の別荘にも梨央さんとご一緒に遊びに来ていただいたこともありました」
フッと麻宮侯爵は冷たく笑う。
「…君は梨央とは婚約解消したと聞いたが?」
縣は少しも表情を変えずにわざと苦笑して見せ
「はい。誠に私の不徳の致すところです」
と、ブランデーグラスを差し出した。
「それより、なぜ君が光を?」
「たまたまパリの街を歩いていたら、光さんに偶然お会いしたのです。光さんはかなり質素な格好をしておられたので、私は不審に思い訳を伺いました。
すると…恋人との関係を麻宮侯爵に反対され、引き離されそうになったので駆け落ち同然に逃げ出したと…。光さんが住んでいらしたアパルトマンの界隈は悪名高きバルベス街でした。移民が多く住み、物騒な事件が頻発する街と聞き、私はとてもそのような場所に光さんを住まわす訳にはいかないと思い、私が間借りしているジュリアンの別邸に彼女を呼び寄せました。今は翻訳や通訳など私の仕事を手伝っていただいています」
憮然としたまま麻宮侯爵は尋ねる。
「…フランス人の恋人は?」
「彼は今、プロバンス貴族の令嬢の絵の家庭教師をしています。光さんとはご一緒に住んでいません。彼の絵も少しずつ評価されているそうですよ」
「彼の絵などどうでもいい。光の夫となるべく相手は、私が決めるのだ!私は外国人との結婚など絶対に認めん!」
麻宮侯爵は半ば怒鳴るように言い放つと、バカラのグラスをイタリア大理石のテーブルに乱暴に置いた。