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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
「…峠は越えたとドクターが言っていたよ」
主治医から説明を受けたジュリアンが、縣の寝室に入りながら光に伝えた。
光はまだ渾々と眠る縣のベッドサイドに腰を下ろし、安堵の溜息を吐く。
「…良かったわ…。過労の上に肺炎を起こしかけていたなんて…。全く、無理ばかりして…」
毛布の上に置かれた縣の手を、光は思わず両手で握りしめる。
「…炭鉱の件で、不眠不休で情報収集に当たっていたのよ。従業員の人達の安否を気に病んで…その前からずっと忙しくて殆ど寝ていなかったのに。…私に負担をかけまいとして夜中まで仕事をしていたみたい…」
本当に、どこまでも紳士なんだから…と、光は少し怒ったように呟いた。
ジュリアンは光の肩に優しく手を置いた。
「…アガタはそういう男だ。どこまでも優しくて紳士な…ね。全く、貴族の鑑みたいな男だよ」
ふと、光が尋ねる。
「…ねえ、ジュリアン。縣さんには弟さんがいらしたの?」
「あ、ああ。アガタの父上が愛人との間に作った子供らしい。アガタはその母子の存在を全く知らなかったんだ。…8年くらい前かなあ…その愛人が亡くなって、その子が孤児院に入れられそうになったのをたまたま聞いて血相を変えて駆けつけてね。…アガタの母がきつい人で、愛人を憎んでそうさせたみたいなんだけど、あの温厚なアガタが、孤児院に連れて行こうとしていた側近を叱り飛ばしてさ…この子は私の弟だ。
今後一切、この弟を軽んじて扱うものは例えお母様でも許さない。て母親にも言い切ったらしい。
…そうして自分の手元に引き取って大切に育てて…その子も今や22歳になるよ。今年帝大を首席で卒業したそうだ。兄さん兄さんて、本当のお兄さんみたいにすごく慕っている。
…一度会ったことがあるけれど、眼を見張るような美青年だよ。…アガタのとこは美形の家系なのかなあ…」
「…そうなの…。縣さんらしいわ…」
光は静かに微笑んで縣の手にそっと口付けた。
ジュリアンはそれを見て見ぬ振りをし、しかしさり気なく
「…なんのかんのいってアガタとヒカルはお似合いだと思うんだけどなあ〜」
と冗談めかしに言った。
光はジュリアンを見上げ、寂し気に首を振る。
「…だめよ…だって私にはフロレアンがいるもの…」
「…そりゃ、そうだけどさ…」
「…私にはフロレアンがいる…」
光は穏やかな表情で眠る縣を見つめながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
主治医から説明を受けたジュリアンが、縣の寝室に入りながら光に伝えた。
光はまだ渾々と眠る縣のベッドサイドに腰を下ろし、安堵の溜息を吐く。
「…良かったわ…。過労の上に肺炎を起こしかけていたなんて…。全く、無理ばかりして…」
毛布の上に置かれた縣の手を、光は思わず両手で握りしめる。
「…炭鉱の件で、不眠不休で情報収集に当たっていたのよ。従業員の人達の安否を気に病んで…その前からずっと忙しくて殆ど寝ていなかったのに。…私に負担をかけまいとして夜中まで仕事をしていたみたい…」
本当に、どこまでも紳士なんだから…と、光は少し怒ったように呟いた。
ジュリアンは光の肩に優しく手を置いた。
「…アガタはそういう男だ。どこまでも優しくて紳士な…ね。全く、貴族の鑑みたいな男だよ」
ふと、光が尋ねる。
「…ねえ、ジュリアン。縣さんには弟さんがいらしたの?」
「あ、ああ。アガタの父上が愛人との間に作った子供らしい。アガタはその母子の存在を全く知らなかったんだ。…8年くらい前かなあ…その愛人が亡くなって、その子が孤児院に入れられそうになったのをたまたま聞いて血相を変えて駆けつけてね。…アガタの母がきつい人で、愛人を憎んでそうさせたみたいなんだけど、あの温厚なアガタが、孤児院に連れて行こうとしていた側近を叱り飛ばしてさ…この子は私の弟だ。
今後一切、この弟を軽んじて扱うものは例えお母様でも許さない。て母親にも言い切ったらしい。
…そうして自分の手元に引き取って大切に育てて…その子も今や22歳になるよ。今年帝大を首席で卒業したそうだ。兄さん兄さんて、本当のお兄さんみたいにすごく慕っている。
…一度会ったことがあるけれど、眼を見張るような美青年だよ。…アガタのとこは美形の家系なのかなあ…」
「…そうなの…。縣さんらしいわ…」
光は静かに微笑んで縣の手にそっと口付けた。
ジュリアンはそれを見て見ぬ振りをし、しかしさり気なく
「…なんのかんのいってアガタとヒカルはお似合いだと思うんだけどなあ〜」
と冗談めかしに言った。
光はジュリアンを見上げ、寂し気に首を振る。
「…だめよ…だって私にはフロレアンがいるもの…」
「…そりゃ、そうだけどさ…」
「…私にはフロレアンがいる…」
光は穏やかな表情で眠る縣を見つめながら、自分に言い聞かせるように呟いた。