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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
縣がようやく眠りから覚めたのはその翌朝のことであった。
暖炉の火が爆ぜる音が聞こえた。
室内は暖かく保たれ、縣は清潔な寝間着を着せられ、寝具もきちんと整えられていた。
熱はすっかり引いていた。
ふと、ベッドの側を見ると光が縣に寄り添うように毛布に顔を伏せ、眠っていた。
縣は自分が倒れ、床に伏してしまった経緯を思い出した。
…光さん…。ずっと自分を看病してくれていたのか…!
胸が熱くなり、それと同時に光への愛しさがひたひたと打ち寄せられた。
毛布の上に置かれた光の華奢な造り物のような美しい手を思わず握りしめる。
光が、ゆっくりと瞬きをし目覚めた。
顔を起こし、自分を見つめる縣に気づく。
はっと目を見開き、縣の腕を捉える。
「気が付いたのね?」
「…ああ…」
「熱は?」
光が縣の額に手を当てる。
「…下がってる…!良かった…!良かったわ…!」
ほっとしたように胸を撫でおろす光を縣は不意に抱きしめた。
光は驚き、身体をびくりと震わせた。
「ありがとう、光さん…君のお陰だ」
「…縣さん…」
縣がゆっくりと抱擁を緩め、光を見つめる。
朝陽に照らされた光の顔は神々しいまでに美しかった。
「…夢うつつの中、君がずっと私の側にいてくれたのが分かった…。君はずっと私を励まして慰めてくれた…」
「…だって…」
「…うん?」
「あんなに弱々しい貴方を見たのは初めてだったんだもの…」
縣は苦笑いした。
「がっかりしたかな」
光は真顔で首を振る。
「ちっとも。…弱々しい貴方は胸が痛くなるほど愛おしかったわ…普段、私には絶対見せない脆いところを見せて貰えて…嬉しかったのよ」
「…光さん…」
縣の光を抱く腕に力が入る。
光はやややつれた、だからこそ翳りのある色気を漂わす縣の顔を見上げた。
「…貴方は私を助けてくれたわ…何度も何度も…だから…少しでも貴方の力になりたかったのよ…」
光の小さな美しい顔を縣の大きな手が優しく覆う。
「…君は夢の中でずっと私の名前を呼んでくれた…温かく励ましてくれた…何もかも朦朧とした中で君の声だけは分かった…」
「…縣さん…」
「…私は君を…」
縣の顔が近づき、二人の吐息が触れ合ったその時…。

扉の向こうでノックが聞こえ、アンヌの遠慮勝ちな声が響いた。
「ヒカル様、フロレアン様がお見えになりました」
二人の距離はそのままに留まり、やがて静かに離れて行った。

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