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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第4章 エッフェル塔の恋人
数日が経過した。縣の体調はすっかり回復し、仕事に戻れるまでに元気になった。
光は胸を撫でおろした。
「でも、無理はしないでね。暫くは私が外回りの仕事をするわ」
光は釘を刺す。
「レディに殺伐とした仕事はさせないのが私の主義だ。
それに君はいささか喧嘩っ早いからね…色々な面で心配だ」
「ああ、こないだのスケベなイタリアン?貴方の目を盗んで私のお尻を触ろうとしたから脛を蹴ってやっただけよ」
光は澄まして答える。
縣は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「…全く!あの男は最低だ!二度と取引はしないぞ!」
「まあ、別に触られたからって減るものじゃないからいいけど」
「何を言っている!良くはない!やっぱり君は外に出るべきじゃない!ここにいて翻訳だけしていてくれ。心配で仕事にならないからな」
むっとして語気を荒げる縣を光はまじまじと見る。
縣ははっと我に返り、咳払いをする。
暫く縣は黙ってしまったが、悪い雰囲気ではなかった。
照れているような縣を見て、光はそっと笑った。
…そしてふと、思い出す。
…あの夜リヨン駅で、夜行列車に乗りプロヴァンスに戻るフロレアンを見送った。
列車のタラップに長い脚をかけながら、フロレアンは光にキスした。
「考えておいてくれ。僕と結婚してニースに行くことを」
「…フロレアン…画家になるのを諦めないで。お願いよ。貴方には才能があるわ。私は貴方を画家として世の中に送り出すのが夢なの」
光はフロレアンの眼を真剣に見つめる。
フロレアンは光の髪を優しく撫でながら静かに答えた。
「僕の夢は君とずっと一緒にいることだ。…愛しているよ、ヒカル」
汽笛がけたたましく鳴り響き、汽車がゆっくりと走り出す。
二人の繋いでいた手が解かれ、身を乗り出して光を見つめていたフロレアンの姿が見る見る内に遠ざかり、夜の闇へと消えて行った。
…フロレアン…。
物思いに耽る光を見て、縣は執務机で書類を読みながら淡々と尋ねる。
「…フロレアンは何か急用があったのかい?」
光は縣を振り返る。
そして一瞬言い淀んだが、決意したように口を開いた。
「…画家になるのは諦めて、ニースに帰ろうかと考えている…て」
縣は書類から眼を上げた。
「…それから…」
光は縣をじっと見つめた。
「…結婚して欲しいと言われたわ」
縣の手がぴくりと動いた。
「…そうか…」
感情を押し殺した声が漏れた。
光は胸を撫でおろした。
「でも、無理はしないでね。暫くは私が外回りの仕事をするわ」
光は釘を刺す。
「レディに殺伐とした仕事はさせないのが私の主義だ。
それに君はいささか喧嘩っ早いからね…色々な面で心配だ」
「ああ、こないだのスケベなイタリアン?貴方の目を盗んで私のお尻を触ろうとしたから脛を蹴ってやっただけよ」
光は澄まして答える。
縣は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「…全く!あの男は最低だ!二度と取引はしないぞ!」
「まあ、別に触られたからって減るものじゃないからいいけど」
「何を言っている!良くはない!やっぱり君は外に出るべきじゃない!ここにいて翻訳だけしていてくれ。心配で仕事にならないからな」
むっとして語気を荒げる縣を光はまじまじと見る。
縣ははっと我に返り、咳払いをする。
暫く縣は黙ってしまったが、悪い雰囲気ではなかった。
照れているような縣を見て、光はそっと笑った。
…そしてふと、思い出す。
…あの夜リヨン駅で、夜行列車に乗りプロヴァンスに戻るフロレアンを見送った。
列車のタラップに長い脚をかけながら、フロレアンは光にキスした。
「考えておいてくれ。僕と結婚してニースに行くことを」
「…フロレアン…画家になるのを諦めないで。お願いよ。貴方には才能があるわ。私は貴方を画家として世の中に送り出すのが夢なの」
光はフロレアンの眼を真剣に見つめる。
フロレアンは光の髪を優しく撫でながら静かに答えた。
「僕の夢は君とずっと一緒にいることだ。…愛しているよ、ヒカル」
汽笛がけたたましく鳴り響き、汽車がゆっくりと走り出す。
二人の繋いでいた手が解かれ、身を乗り出して光を見つめていたフロレアンの姿が見る見る内に遠ざかり、夜の闇へと消えて行った。
…フロレアン…。
物思いに耽る光を見て、縣は執務机で書類を読みながら淡々と尋ねる。
「…フロレアンは何か急用があったのかい?」
光は縣を振り返る。
そして一瞬言い淀んだが、決意したように口を開いた。
「…画家になるのは諦めて、ニースに帰ろうかと考えている…て」
縣は書類から眼を上げた。
「…それから…」
光は縣をじっと見つめた。
「…結婚して欲しいと言われたわ」
縣の手がぴくりと動いた。
「…そうか…」
感情を押し殺した声が漏れた。