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背徳の主
第5章 彩乃
隣のおじさんはしばらく私を見つめていた。

「お姉さん、もし良かったら、今からランチを食べないか?」

「いや、食べた方がいい。」

おじさんは私を促してパチンコ店を出ると、近くの喫茶店に入った。

おじさんは日替わりランチを2つ注文した。

ランチがくる間、おじさんは自分の事だけを話始めた。

すでに定年退職し、来年から年金が貰えること.。

奥さんは再就職を勧めるが、自分はもう働かない。

家にいると喧嘩になるので日中はパチンコをする。


ランチを食べ終え、コーヒーが来てから

「さて、お姉さん、何か事情が有るみたいだから、話してみないか?」

彩乃は自分の話を誰かに聞いて欲しかった。

見ず知らずのこのおじさんでも良かった。



「なるほど、大変だね、騙された時は辛かっただろう。」

彩乃は話しながら回想していた。

「見ての通り、おじさんは何もできないが、知り合いがいるので話をしてみよう。」

「折り返し連絡するので、携帯を教えてくれないか?」

彩乃は番号を伝えた。

「さて、夕方までには連絡できると思う。」

「今日は家内に土産話ができた。若い女性から声を掛けられたと。」

おじさんは笑いながら会計を済ませ、それから別れた。


その日の夕方、おじさんから連絡があった。

「明日午前11時に○○ホテル1102号室に東城と言う男を尋ねてみるといい。既に内容は話してある。それと各金融会社の残高の明細書も持って行ってくれないか?」

彩乃は心からおじさんに礼を言った。

「気にせんでいい。これも何かの縁。それと東城は少し変わっているが、信頼はできる。あいつには貸しがあるからな。」




次の日彩乃は正装してホテルに向かった。

エレベーターで11階に上がり1102号室の前で立ち止まった。

「コンコン」

ノックをすると

「はい」

まもなくドアが開いた。

眼鏡を掛けた少し強面の男が出てきた。

「南 彩乃です。」

「中に入って。」

彩乃は中に入ると一緒立ち止まった。

部屋の中央にはダブルベッドがあり、片隅にテーブルとソファーが置かれていた。

「ベッドは気にしなくていい。ちょうど今引っ越しの最中で、ここを自宅代わりにしている。

「そちらのソファーに座って。」

男の命令口調に彩乃は少し怖くなった。
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