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背徳の主
第8章 顧客NO 041323C 希
土曜昼間の通勤電車は比較的空いていた。

通勤電車といえば聞こえがいいが、ここは田舎みたいな地方都市。

これが通勤時間帯だと電車が二両編成の為にすし詰め状態になる。

勤務先があるJRの駅から、この私鉄のローカル線が希の住む町を経由する。

希の勤務先は総合病院。

そこの薬局で薬剤師として働いている。

今の時代、大概の病院は外来患者の院内処方は全て院外処方に委託し、希のような薬局薬剤師は原則的に入院患者のみを扱う。

毎週土曜日は午後から休診となるため、希はこの時間帯に帰宅する。

4月に入り日中は比較的暖かくなった。

希はロングシートから一旦立ち上がり、スプリングコートを脱いだ。

反対側のシートでは、仲良さそうなカップルが手を繋いで会話をしている。

希は冷めたような目で二人を見つめていた。


「お疲れ様でした。まもなく○○町に到着します。お忘れ……」

電車が到着すると希は立ち上がり、駅に降りた。

恋人や親しい男友達もいない希は、本来ならここから自宅へと向かうのだが、今日に限って買い物があった。

駅前からバスに乗り、3つ目の停留所で降りた。

少し歩くと目的のショップが見えてきた。

そう…「Mid Night」という名のランジェリーショップが…


希は少し緊張して「Mid Night」の自動ドアをくぐった。

中に入ると軽快なBGMが流れ、様々なメーカ物の下着がディスプレイされている。

さすがに土曜日のせいか、客層は若い20代が多い。

希はいつも量販店で下着を買うので、このようなショップは引いてしまう。

とりあえず各通路を歩いて見渡し、奥へと進む。

途中洗面所に向かう通路を進むと、右手に「Night Life」のドアを見つけた。

希の目的はここでの買い物。

希は恥ずかしさで緊張しながら「Night Life」の自動ドアをくぐった。


「いらっしゃいませ。」

女性店員が棚の商品整理を一旦止めて希を見た。

希は店員が女性だったので、少し安心した。

店内の陳列されている商品は既にネットカタログで観ていた。

もともとこの「Night Life」もネット検索で見つけた。


「何かお求めの商品がございますか?」

「南 彩乃」のネームプレートをつけた女性店員が声を掛けてきた。




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