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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第10章 兄妹だから
拾った本の土ぼこりを簡単に落として、両腕でぎゅっとする。
すると不破が去った道の向こうから、今度は別の人影が現れた。
「お兄ちゃん…」
弱々しい街灯にぼんやり照らされながらゆったりとした歩調で近付いてくる。
大学帰りに寄ったスーパーの買い物袋を片手にさげて、カツカツと靴を鳴らしながら花菜の前に来た。
「ただいま」
「おかえりお兄ちゃん」
「どうかしたの? パジャマのまま外に出て」
「あ、えっと、これは…」
そうか、今の自分はパジャマなのか。
帰宅した伊月の前で不自然に慌てる花菜。
「高校の人が来たの。それで」
「ああ、お見舞いにかい? こんな遠くまで親切な友達だね」
「…っ、いや、お見舞いというか友達というか…。ええっと、そういうのじゃなかったんだけど」
「なら先生かな」
「そうでもなくって…」
「ふぅん?」
しどろもどろな花菜の様子に対して疑問をいだきながらも、とくに心当たりのない伊月。
彼女が持っている本にしても、その理由を推測するにはいたらなかった。
「まぁ部屋に戻ろうか。夕飯にしよう」
「う、うん」
「───ッ、あれは…」
だが彼女と話していた伊月がアパートの前庭に目をやると、郵便ポストの蓋が開いている。
それに気付いた伊月の目が僅かに穏やかさを失った。