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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第10章 兄妹だから


「…ねぇ、お兄ちゃん」


「……なんだい?」


先にアパートの階段までたどり着いた伊月だが、花菜の小さ目な声を聞き逃さず立ち止まってくれた。

身体の向きは変えずに、横顔を見せる。

花菜は唇に触れていた手を下ろして、一歩ずつ彼に近づいて行った。


「キスって…──どんな時にするの?」


「……!」


「誰かとキスしたいってどんな気持ちなのかな」


「これはまた唐突だね」


伊月の横顔が、困惑と同時に微笑む。

戸惑った時に見せる微笑みだ。

それくらい花菜の質問は彼の不意をつくものだったし、それに、教えるのも難しい。

今まで花菜の疑問には何でも答えてきた伊月だけれど、そんな彼ですら悩む問いかけだった。


「上手く答えられないけど…、誰が誰にするのかで意味合いは変わるだろうね。それに……いや、そうだな……。共通するものがあるとすれば " 愛情 " だろうか」

歩み寄る花菜と目を合わせず

何かそれらしい言葉を探して話す伊月。

「愛しいと思った相手にはキスをしたくなるものだよ」

「そっか…。他には?」

「…他?」

「うん」

階段の下まで追い付いた花菜は、そこに立つ伊月の服の袖を掴んだ。

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