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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第10章 兄妹だから
渦巻く感情は、確かにあったはずなのに──
それを景色に変える術(スベ)を彼はずっと前に身に付けてしまった。何年も、何年も前から。
だから今ですらこうして…彼は口許に微笑みを貼り付けたのだ。
カツ、カツ、カツ
アパートの階段。二人分の足音。
上るスピードは速くもなく遅くもない。
二階の部屋に彼等は入った。
花菜が飛び出してきたそのままだから、ドアに鍵はかかっていなかった。
ドサっ..
再びドアが閉まり
二人は狭い玄関で靴も脱がずに向かい合っていた。
花菜が持っていた買い物袋が本と一緒に手から落ち、足の踏み場はますます無くなった。
「教えてあげるよ」
ドアに背を預けた花菜の頭上で伊月が囁く。
腰を屈めた伊月はドアに片手をついてバランスをとった。
他方の手で花菜の頬を触り、指先でそっと顎をすくう。
花菜が素直に上を向いたので力を入れる必要はなかった。
「愛情の他にもね…キスをする理由はあるんだ」
「それって……?」
「──…欲情だよ」
彼はゆっくりと顔を近付け、花菜の頬に自らの鼻を擦り付けるようにして…上唇を添えた。