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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第10章 兄妹だから
「いや、怖い、怖い、怖い!」
「…ッ─!?…花菜…っ」
「怖いよ…!! 怖いよお兄ちゃん…!!」
花菜の様子が急変する。
彼女は兄の腕から逃れようと暴れ始め、身をよじって彼の足を蹴る。
「こんな の、おかしい、怖い、夢だよ…ッ」
怖い、怖いと繰り返しなながらポロポロと大粒の涙を零す。
思い出してはならない。
よみがえってはいけない。
とにかく忘れなければならないから、ヒステリックに喚いた。
口内で舌を絡み合わせた甘い感覚も…
下腹部を支配してきた重たい疼きも…何もかも
身を任せてしまいたいと思ったに違いないのに、自分の本能がそれを拒絶する。
「…ッ…花菜! 花菜!」
伊月は暴れる彼女の手を腕の中へ封じ込めて抱き締めた。
「ぃゃ だ…!! こんなの…」
「もう何もしない、大丈夫、お兄ちゃんはこうして…君を抱き締めるだけだ…っ」
花菜の濡れた鼻面が伊月の胸に押し付けられる。
叫ぶ声がこもって…しだいに嗚咽に変わるまでの時間、彼女の身体をかき抱(イダ)いた。
「だから…っ…安心して」
「…う…っ…、う」
「僕が怖い夢を思い出させてしまったんだね。本当にごめんね」
その間 懸命に話しかける彼の声は、しっかりと "兄" の声に戻っている。