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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第12章 かき乱す者
街路の電柱に寄りかかる男を見付けて、うつろだった伊月の目が開く。
「…君は、たしか」
「……」
「ハァ…、困ったな」
アパートの前で視線を交えた二人。
伊月は相手の顔に見覚えがあった。
古びたビルの階段で、この男に捕らえられ泣いていた花菜の姿が脳裏に蘇る。
大切な妹を犯し処女を散らせた、その男だ。
「こんな所にまで現れるなんて…君はあの子のストーカー? 今度こそ警察に通報しなければならないようだね」
だが、そうとわかったものの伊月は取り乱さなかった。
今となっては…この男に対する怒りすら、伊月の中では不確かなのだから。
「ストーカー? ……ああ、それも、そうか」
「自覚はないのかい」
「とくに無かった」
それを見抜かれているのか、相手の男は悪びれることなく飄々と答える。
ある程度の距離をとって立ち止まった伊月を、上から下まで不躾に見遣った。