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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第12章 かき乱す者
「はい、お兄ちゃん」
「ありがとう…」
喉を鳴らしてコップの水を飲み干していく伊月を、花菜は黙って見守った。
兄からただよう酒の匂いは意外である。…だが何故だろう。不快ではなかった。
自分が知らない伊月の一面。それを垣間見た。
爽やかで穏やかで完璧な憧れの兄が、知らないところで酒を飲み、こうして二日酔いで苦しんでいるだなんて
何故かは本当にわからないけれど、花菜の胸はドキドキと密やかに拍動を速めている。
「…花菜は、もう平気なのかい?」
「えっ、何が…?」
するとグラスが空になったところで、寝起きの掠れ声で伊月が彼女に問いかけた。
床に座る花菜の背筋がシャキっと伸びる。
枕に頭を戻した伊月にじっと見つめられ、彼女は歯切れの悪い笑顔を返した。
「……」
ピンときていない花菜に真っ直ぐ視線を合わせてくる伊月。
重たい瞼を上げた彼は
とても真剣な表情だった。