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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第12章 かき乱す者

不破からの──昨日の去り際の言葉が、ふっと脳裏によぎったからだ。

花菜の背中が僅かに縮こまる。

「…っ」

伊月のスマホを両手で握り、祈るように俯いた。

「わ、わたし…」

「……」

「わたし、今日は行こうと思うの」

そう伊月に告げた花菜は、自分で自分に戸惑っているのが伝わる態度だ。


「怖くないの?」

「こ、怖いよ…とっても、怖いよ。でもそれ以上に無視できないの…っ」

「……何を?」

「──…あの…人を」


《 あの人 》


誰の事だい?

そんな問いが続いても良さそうなものの、伊月はそれを聞かずじまい。

布団に横になったまま《あの人》の目星を付けたのかどうか……ただ

結局、彼が花菜にかけてやれる言葉はこれに限られているのだ。


「いいよ。花菜が行くと決めたなら止めはしないさ」

「…うん、行ってくるね」

「その代わり、また怖い目にあいそうだったり…嫌な思いをしそうな時はすぐに帰っておいで。
──…お兄ちゃんのところへ」

「うん、うん」

「いい子だね」


伊月の言葉に、花菜は何度も頷いて返した。


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