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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第12章 かき乱す者
たまらなく嫌な空気なのだ。
相手に対して何も謝る事はないけれど、だが、悔やむ気持ちはある。
肩掛けのバッグの紐を強く握る花菜の掌には汗が大量に滲み出た。
ここには、はいれない
このたったの数秒で自分の居場所が完全に失われたのを察した彼女は教室に背を向けた。
「……ッッ」
「──なんだお前、登校早々に帰るのか?」
しかし
「…っ…せんぱい…!?」
「なら丁度いい……。俺と来い」
振り返った目の前には不破がいた。
先程までその名が口々に話題にされていた、当の本人がここにいる。
教室がざわめいたのは言うまでもなかった。
そして花菜の心も……。
「お、おはようございます」
「…は?」
「え?」
「…ああ、挨拶か。呑気だなお前」
「そんなことない!……です」
今の花菜が呑気になんてなっていられない差し迫った状況なのが、この男にはわからないのだろうか。
誰よりもマイペースな彼は花菜の心境など意に返さず、彼女の手を掴んでこの場を離れた。