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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第12章 かき乱す者

いったい何処を目指しているのか。

花菜がそれを尋ねるタイミングもなく、不破は校舎の1階で立ち止まった。

ガラリとドアを開けて中に入った場所は──

「保健室…?」

先に不破が保健室へ入り、手を掴まれている花菜がそれに続く。

他の教室とは違う独特の匂いが、冷房による冷たい空気と一緒に二人を包んだ。

てっきり校舎の外に連れ出されると思っていたけれどその予想は外れたようだ。

“ どうして保健室? ”

他に生徒はいない。そこは養護教諭がひとり椅子に座っているだけの静かな空間。

机にファイルを広げて仕事中だった女の養護教諭は、二人が来た音に反応して顔を上げた。

「ひっ…!」

すると、その目が不破に向いた瞬間に、彼女は喉の奥で短い悲鳴をあげた。

まだ若く男子生徒に人気の教師の、穏やかな表情が一気に消え去る。

怯えていた。

本物の悪魔を見る目付きで…。

その怯えようを見た花菜の方が逆に怖くなって、不破の背中に隠れてしまうほどだった。


「邪魔」


ここでひと言、不破が呟く。

花菜はその言葉が自分に向けられたものだと思った。

ところが彼女よりも素早く反応した養護教諭が椅子から飛び上がり、別のドアから外に出て行ったのだ。

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