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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第16章 崩壊への誘い

「あいつはいない」

「嘘だね」

「…まぁ、いたが。もう帰した」

「──…それは本当かな」

「…?」

なかなか信じない伊月に疑問を抱く。

…確かに信用される立場でもないが。

「わざわざ嘘はつかねぇよ」

「……」

伊月は不破に向けていた疑いの眼差しを、その奥の室内へと移した。

見通しのいい殺風景な室内を見渡す。

そこに花菜の姿は無かった。

「奥のトイレも見て行けばいい」

「ああ……いや結構だよ。君の言うようにあの子はもういないみたいだ。信じよう」

それを確認してなんとか納得したらしい伊月。


しかし…


彼は足の重心を入れかえただけでその場から動こうとしなかった。


「……まだ、何かあるか」

不破は露骨に怪訝な顔を見せ、首にかけていたタオルで髪を乱雑に掻きむしる。

さっさと扉を閉めてしまってもいいのだが、基本的に暇をもて余しているのが常であるこの男は、この数秒に堪えられないほど短気でもない。

無言の伊月に対して問いを投げる余裕があった。

「ハ…どうした、俺に小言を言いに来たのかよ。それか…次こそ警察に突き出すつもりか?」

「……」

「それにしては今さらすぎるが…」

「まさか、警察なんて呼ばないさ──」


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