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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第16章 崩壊への誘い
「あの子がそれを望まない限りは…ね」
何気ない言葉のようにさらりと呟く。しかしその軽さは口から出た瞬間だけのフェイクだ。
人の声とは言外の意味を含めば含むほど…それだけ重く語尾が響いていく。無機質な部屋に相応しく床を這う。
「……それにしても」
どれだけ偽の笑顔で誤魔化そうと、紳士的に振る舞おうとも──。
「君はここに住んでいるのかい?ご家族は一緒じゃないのかな」
「は?──…ああ、ここは俺がひとりだ」
「それは……変だな」
「知るかよ…。…ったく、あんたら兄妹はそろいもそろってどうでもいい事を気にするんだな」
「どうでもいいだって?──…有り得ない」
「…?」
ふと、伊月が息を止める。
すると沈黙が出来上がった。不破はその一瞬の静けさの意味を汲み取れず、自身も髪を拭う手を止めた。
良くない予感を抱いた不破は──
改めて伊月の目を正面に見据えた。
そうして目の当たりにした伊月の瞳には
まぎれもない憐憫(レンビン)の情が浮かんでいたのだ。
「何よりも大切な筈だろう…?」
「……!」
「たったひとりの妹…──
実の父親を殺してまで守ろうとした、君の妹」
憐憫、哀れみ
「……ッッ」
それらを向けられた屈辱。
不破の怒りがその瞬間に沸点まで上りつめ、鋭い殺気をまとい伊月の胸ぐらを掴んだ。