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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第16章 崩壊への誘い

「…なかなか‥骨のかかる調べ物だったけれど─…君の過去はだいたい、わかっ‥た。父子家庭で育った君 が、父親を刺して少年院に送られた事も」

またいつ次の蹴りを喰らうかわからない。そんな緊迫した空気の中で伊月の掠れ声が続いた。

「刺された男が常習的に…──まだ幼かった君の妹を性欲のはけ口にしていたと、…そんな、噂も」

「──…」

「……当時の週刊誌にさんざん書き立てられたようだね。気の毒に」

「……ハっ」

不破が片頬に刃のような冷笑を浮かべた。

そして彼はそこで横たわる伊月のもとへ歩き、腕を掴んで持ち上げた。

痛みに呻いた伊月を強引に立たせたうえで、壁に向けて突き飛ばす。



「…それだけ知れば満足だろう? 俺を侮辱するネタを掴めて良かったな」

「っ…満足?──…べつに満足したつもりはないけれどッ…ハァ、……そうだね……納得はしたさ」

突き飛ばされた伊月は膝を中途半端に曲げた体勢で冷たい壁に寄りかかる。

弱々しく首を傾げてゆっくりと答える様には、ある種の色気が漂っていた。

「君が花菜にこだわる理由が…よくわかった」

「…っ」

「大切な妹と…花菜の姿が、重なって見えるのかい?」

可哀想にね──。

伊月はもう一度、目の前の男を哀れんだ。

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