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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第3章 ルール

──
「花菜……!!」
それから花菜が彼女の家に──つまり兄の住むアパートに帰り着くまでには、かなりの時間がかかった。
掃除を途中で投げ出し、身ひとつで帰って来た彼女は、鞄も傘も…財布すら持っていなかったから。
バスにも乗れない。花菜は歩くしかなかった。
だから、チャイムを聞いて部屋を飛び出た伊月が真っ青な顔で花菜を迎えた頃には、外はすっかり暗がりであった。
ぐっしょりと雨に濡れて張り付いたブレザー。
帰宅した妹を抱きしめた伊月のシャツも、同じように濡れた。
「おかえり…っ…花菜」
「…た…だいま、お兄ちゃん…」
「無事でよかった」
「……うん」
いつもふわふわくるくるとした花菜の髪も、水を含んで重たそうだ。
抱き寄せる伊月はそこに鼻を埋め、春雨にうたれて冷たくなった彼女の身体を不憫に思った。

