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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第17章 いつか 離ればなれ
座っている老婆の前に伊月が近付くと、一冊の本を差し出された。
「これは…」
「伊月くんにあげるわぃねぇ。これ、売りもんにならん」
「ええっ?どうしてですか急に」
「外国の本だからねぇ。捨てるよりマシかと思おて引き取ったが、だーれも買やあせん。伊月くん好きじゃろ?」
なまりの強い言葉と一緒に渡された古めかしい本は、なるほど英語で書かれた物だった。
置物としてただ飾るには需要があるかもしれないが、こんな裏道の古本屋にあったところで商品にならない。
だが伊月は読める。
大学でも英文学科を専攻する彼は、16、17世紀のイギリス文学をとくに好んで読んでいた。
「ハハ…、そういう事ならほしいです」
「持っていき持っていき!どうせこの店は閉めるんけ」
「閉める?辞められるんですか?」
「もう歳じゃからの」
「そうですか…残念だな」
この店をたたむ事を告げられ、湿っぽい空気になる。
だが老婆の顔は変わらず朗らかだった。