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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第17章 いつか 離ればなれ
「ああ気にせんでよか。ほらそれ持ってお帰り。店は閉めても会いに来てちょうだいね」
「もちろん、また来ますお婆ちゃん」
「嬉しいねぇ。ところで妹の花菜ちゃんは元気かい?前は学校帰りによく来てくれとったんに……ぱったりとねぇ、来んとよ、最近は」
「……」
「心配なるが」
「……、花菜はちゃんと元気ですよ」
「…そうね?」
ほんならいいんだけどねぇ……
伊月は古本屋の老婆と別れた後、再び夜道を真っ直ぐ進んだ。
ポツポツと連なる橙色の街灯が物静かに彼を見守る。
それに沿ってゆっくりと歩く伊月の姿は、パンの欠片を目印に暗い森を彷徨う童話の兄妹を連想させる。ただし妹は傍におらず、その帰り道には彼がひとりだけ…。
そういえば先ほどの古本屋。老婆はわざわざ伊月を待ってずっと外にいたのだろうか。
一冊の本を手渡すために。
変わったお婆さんだと思っているうちに、伊月はアパートへたどり着いた。