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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第17章 いつか 離ればなれ
「ただいま」
鍵を開けて玄関に入ると、部屋の電気は点いていた。
だが返事がない。
キッチン併設の廊下の突き当たり──布団が敷きっぱなしの畳部屋にも、人影は無かった。
バスルームからも水音はしない。
しかし玄関で靴を脱いだ伊月の足元には、彼よりずっと小さな黒色のローファーが揃えてある。
「──…」
伊月は廊下を抜けた。
畳部屋に踏み入ったその足は、敷かれた布団を避けもせず進む。
ベッドの横を通り過ぎて
そして伊月は、突き当りの掃き出し窓を勢いよく横に引いた。
「……ただいま花菜」
「…っ…おかえり、なさい」
カーテンの陰になり、室内から死角になる隅っこ。
ベランダにいた花菜は、窓を開けて出てきた伊月に背中を向けて…どこか、いや
明らかに無理をした明朗さで、よそよそしく返事をした。