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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第17章 いつか 離ればなれ
怖いのだ
彼は
自分を "兄" と呼ぶこの女が
彼は
この世界の誰よりも──
「─…ッッ」
突如、伊月は舌を引き抜いた。
俯く彼の口内に、血の味が広がる。
痛みがあるから自身の血に違いない。
「花菜…っ」
花菜の顎を鷲掴み、彼女の小さな口の中が無傷であると確認した伊月は、心底ホッとした顔をして手を離した。
良かった
彼女が噛み切ったのは伊月の舌だった。
「…ケホっ、ハァっ‥ハァっ‥」
「…………」
「お兄ちゃんごめ…─!!」
「…すまない」
彼の唇の上に血の膜が浮かぶ。
破顔した花菜が兄の出血を視認した時、二人同時に謝っていた。
「すまない……!」
伊月が顔をそむける。
「少し…外に出てくるよ。花菜は先に寝ていてくれ」
「外…?…どこ…?」
「…何処だっていいんだ」
最後、笑いかける余裕はなかった。
「ちゃんと…戻るから」
不破に痛め付けられ、いまだに痛む身体を引きずりながら、彼は急いで玄関から外へ出た。