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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第18章 僕を見て
「…まさ か………違う、嘘だ、そんなわけ…」
もはや愛撫どころではなくなった。
伊月は恐怖におののき花菜から離れる。
ガンッ!!
「…ッッ」
すると布団に尻を付けたまま後ずさった彼は、背後のローテーブルに左腕をぶつけた。
さらにぶつかった拍子に揺れたテーブルの上で
"あの"マグカップが運悪く倒れてしまう。
そして伊月は──
「…!」
カップの中から飛び出してきた黒い液体を左半身に被った。
「‥‥‥‥」
生温い。
“ なんの、冗談だ ”
目を疑う。
部屋の暗さのせいにして…見間違いだと思いたい。
それこそ
夢であったら
と。
けれど
「──…」
テーブルの上で彼と同じようにココアを被り台無しになってしまったこの本は、間違いなく今日、古本屋の老婆から譲り受けた物。これは現実。
なんの冗談だ。
空(カラ)だった筈──いや、空でなければならないマグカップの中身は、このとおりだ。
伊月の嫌いな甘ったるい飲み物の香りが…たっぷりとシャツに染み込んでくる。