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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第3章 ルール
「僕なら」
捻られた蛇口から流れる水が皿にかかる。
跳ねた水玉は小さなシンクから飛び出して、せっかく乾いていた伊月のシャツにかかった。
「僕なら…どんなに世間から叩かれようと貫き通す。犠牲が必要だというなら…──何であろうと差し出す覚悟がある。軽蔑も侮辱も怖くなんてない」
「……?」
「唯一、怖いのは……」
「…お兄ちゃん?」
「……うん、独り言だよ」
「独り言…?」
蛇口の水はすぐに止められた。
続いてスポンジに洗剤をとった伊月は、リビングで座る花菜にいつもの笑顔を向けて声を弾ませた。
「嫌なことがあったらね、何でも相談してくれていいんだから。腹が立つことがあったなら僕にぶちまければいいし」
「…っ、わかってる」
「いい子だね」
全然、いい子なんかじゃない。
それでも花菜に向けられる愛情は無条件で、溢れそうだった涙もひくくらいに温かい。
「だったら元気をだして。──じゃあテーブルを拭いてから布団を敷いて? 少し早いけれど今日はもう寝てしまおう」
「もう?」
「やるべき宿題も学校に置いてきたんだろう? いさぎよく諦めて明日は先生に怒られなさい!」
「え~っ」
口では嫌そうに言いながらも、花菜は大人しく丸テーブルを部屋の端に移動させた。