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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶
「……っ」
立ち上がろうとして膝を立てた伊月は、表情は変えないままに動きを止めた。
彼の身体はボロボロだった。
あらゆる関節が錆び付いたように動かし難い。動こうとすればするほどぎこちないから、油でもさしたい心持ちだろう。
けれど止まったのは一瞬で…
彼はかなりゆっくりとだが、ひとりきりの室内で重たい腰を上げた。
窓から臨むベランダには、昨日花菜が干しかけていた洗濯物が残っている。
粉っぽく白い光が伊月のシャツで反射している。
そんな初夏の朝陽は眩しくて、狭いベランダ越しに見下ろす街は濁って見えた。
伊月は窓を少しだけ開ける。
すると先程から朝陽に照らされながら室内を漂っていたホコリ達が、風に合わせて緩やかに外へ流れていった。
伊月はそれを無心に眺めた後、キッチンの方へ歩いた。