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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶
キッチンがある廊下には彼の靴下が脱ぎ捨ててある。
そしてシンクの上には、洗い終わったマグカップが逆さまに乾かしてあった。
伊月はそのカップを手に取った。
リビングである畳部屋には、昨夜の彼がココアをこぼした布団がそのままで…
一緒に汚してしまった本も放置してある。
それでも…カップだけは洗われていた。
いつものように。
普段と──変わらず。
「──…不思議だ」
酒を呑みすぎた翌日のような…酷く潰れた声で呟くと、彼はカップを持つ手と反対側で、シンク上の別の物を引き寄せた。
「今の僕には、きみの気持ちを理解できる……」
彼は掴んだココアの袋を、流れるような黒目で見遣る。
その据わった表情は場違いな色気すら合わせ持ち、危険なくらい蠱惑(コワク)的な眼差しだった。
──…