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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どうかした?
今日は元気がないんだね
そんなことないよ
橙色に染められた雲がぼかし模様となって西の空に広がる春の日。
目の前に水平線を臨むとある島の原っぱに、子供の華奢な背中がふたつ。
ひとりの少女が、自身の様子を心配してくれる優しい少年の問いかけに首を振って返した。
『 はい、どーぞ 』
そして赤いワンピースを着たその少女は、隣に座る少年に花冠を差し出して……
『 僕にくれるの? 』
『 うん。…だからね、やくそくして? 』
『 約束? 』
『 大きくなったらわたしをおヨメさんにしてくれるって……やくそくして! 』
『 ……! 』
『 わたしのこと、ずーっと好きでいて!
どこにもいかないでほしいの 』
そう言うと、ふにゃりと目尻を落として微笑んだ。
少年にとってその微笑みは、天使や妖精よりもずっと眩しく……尊いものに感じられた。
小さな手が、白い花冠を頭にのせる。
返事をしようと少年が口を開けた時──
二人を迎えに来た大人たちが何か騒がしく喚いてくるので、喉で止まった言葉は胸の内に引き返すしかなかった。
◇◇◇◇◇ シロツメ草の記憶 ◇◇