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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶
彼がここまで冷静なのは、似たような光景をずっと昔に見ているからかもしれない──。
だから遅かれ早かれこうなる事を知っていた。
むしろ、けしかけたのは不破だ。
「…ここまでサディストとは知らなかったが」
そんな自分の想像を次々に超えていく伊月の歪みっぷりに、思わず笑みが零れる。
あまりに愉快だったから声を出して笑った。
「クク…っ…期待以上だなお前の兄貴は」
「……っ」
「お前を愛しすぎておかしくなってやがる……ハ、わかってるか?この噛み痕は異常だぞ」
「……!」
馬乗りで顔を近付け、耳を塞ごうとした彼女の手を頭上で結い止める。
花菜は目をつむり首を振って抵抗していたが
"異常だ" という不破の言葉を聞いた瞬間──
「違う……、そうじゃ ないんです」
スッと大人しく抵抗をやめて、とても哀しい瞳で相手を睨み上げた。
「わたしが苦しめたから……!!」
「…?」
「お兄ちゃんが叫んでたのに…ッ……ずっと、ずっと苦しそうに叫んでいたのにわたしが…目を開けなかったから…!!」
「……」
「だからなんです!わたしのお兄ちゃんはこんな事しません……!」
不破を睨んだ目元は、つり上がるどころかみるみる垂れていく──。
すぐに耐えられなくなって新たな涙を押し流した。