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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶


「あんなに苦しませた……ッ」


花菜は目を開けなかったのだ。

昨夜、兄の帰りを待つうちに

飲もうと思い作ったココアを放置して眠ってしまった花菜。

彼女が次に目覚めた時、他でもない伊月の舌が口腔に挿し込まれていた。

息が止まるほど動転する中で、けれど決して動いてはならないと──起きた事を彼にさとられてはならないと

そんな…理由不確かな決意だけが頑な(カタクナ)で

ただそうする他なくて──。


『 嫌なら逃げなよ……! 』


逃げることすらしなかった。

あんなに追いつめられてしまった彼を救うための、たったひとつの方法だったかもしれないのに…


“ わたしは逃げなかった ”


逃げなかった

だってあの時

わたしは……確かに、幸せだった



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