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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶
「不破先輩にはわかりません…っ」
「──…」
そして顔を横にそらした花菜。
覆い被さっている不破の威圧から逃れようと再び身体をよじった。
…すると今度は、何故かあっさりと解放された。
不破が彼女の手を離す。
気不味さとも違う重たい空気が漂う中、彼はその場に立ち上がる。
転がした彼女をそのまま放置して背を向けた。
“ 俺にわからない、か。……馬鹿を、言うな ”
灰のように色の無い瞳が遠くを見つめる。
黄昏る(タソガル)空が広がる景色も、彼にとっては意味を失った記号の重なり──。
「…お前の迷いも恐怖も、知らないわけじゃない」
「先輩…?」
不破は理解している。
大切であるからこそ臆病にならざるを得ない、不自由な運命──。
切りたいと願えど、どこまでも付きまとう影。
わかっている。
簡単に変われるわけがない。
『 たすけて……おにぃちゃん…… 』
もし……そう簡単に切れる縁ならば
かつての妹を苦しめていた男が、赤の他人だったなら
あの日の不破は妹を連れて逃げた筈だ。