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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第19章 シロツメ草の記憶
胸元のボタンを押さえる指が震えた時
彼女の周囲を包んだ白い花の幻覚が──
『 花菜ちゃん!花菜ちゃん! 』
一面を覆う。
過去の光景を……引き連れて。
『 鈴村さんとこの花菜ちゃんだろう!? 大変なんだ、君のお兄さんが自分で、て、手首を…!! 』
『 ……? 』
『 …ッ…いや、とにかくおじちゃんと病院へ行こう!お母さんとお父さんは先に向かってるから 』
『 おにぃちゃんが、どーしたの? 』
故郷(フルサト)とは似ても似つかぬこの場所に咲き乱れる幻覚は
匂い立つ青い香りまであの日のまま──。
「‥ぃ‥‥ヤダ‥‥‥ょ‥‥?」
絶対に思い出してはいけない記憶が
どうして
再び
わたしの前に……?
「‥ッ─おにぃちゃん‥‥!!」
「あっ鈴村さんどこへ…」
花菜は目の前の担任を押し退け、屋上の出口から階段を駆け下りて行った。
兄を心配したのか
それともこの幻覚から逃げ出したのか。
彼女は一心不乱に走り去った。