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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第20章 溺れた兄妹
休憩がてら売店に立ち寄ろうとしたこの病院の医者だろう。
突然飛びついてきた花菜に驚きながらも、それなりに冷静に対応する。
「落ち着かれて下さい。お見舞いの方ですか?」
「す、鈴村です、鈴村と言います!今日わたしのお兄ちゃんがここに運ばれたそうなんです!」
「運ばれたと言うと救急の患者さんですか」
「えっと、そうです!」
花菜が白衣の裾を引っぱるたびに、男が首にかけている聴診器が揺れた。
医者の男は、隣を歩いていた看護師に目配せをする。
「わかるか?」
「救急の患者さんですと……でも、鈴村さんという方がいたかどうか」
「そうだな、私にも覚えがないが…。今は緊急のオペもやっていない筈だな?」
「はい」
医者といっても全ての患者を認知しているわけがない。
だが切羽詰まった花菜に気圧されてか…きちんと真剣に考えていた。
「とにかくここは外来の受付場所ですので病棟に行きましょうっ。そこの連絡通路から行けますので…」
「…っ」
「あ…」
医者は病棟にいる看護師たちに確認を取ろうとしたけれど、花菜はその医者を置いて自分だけ先に行ってしまった。