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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第20章 溺れた兄妹

花菜はこの女に礼を言うべき立場なのだろうけれど、それもできずに黙って立っている。

「──…あんた、どうやって中に入った」

代わりに口を開いたのは、横から二人のやり取りを傍観していた不破だった。

「鍵が開いてたのか?」

「…いいえ閉まっていました。私は合鍵を持っていたから、それを使って」

「合鍵を?あんたが?」

「は、はい」

不破に問われて、女は肩掛けのバッグから鍵を取り出す。

伊月のアパートの鍵だ。


「……返します」

その鍵は、無言の花菜に差し出された。


「本当は別れてすぐに捨てないといけない物だったけど…ごめんなさいね?まだ付き合ってるってあなたに嘘をついて」

「…?」

「未練たらしいですよね。でもっ…お陰で伊月くんを助けられたと考えれば、許してもらえるかな?」

花菜は鍵を受け取った。

今は頭の回転が鈍いせいで相手の話が半分もはいってこないが、「返す」という言葉の響きに…ホッと安堵する自分がいる。

兄の安否もわからぬままなのに。

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