この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第20章 溺れた兄妹

「兄とは、あの青年のことだったか……」
ボソリ
不破の隣で医者の男が呟く。
エントランスで花菜に捕まった彼は偶然にも、救急で運ばれてきた伊月を診た当人らしい。
「……で?」
不破はその医者に、いつものように敬語も使わず不躾に、伊月の事を尋ねる。
「何があった?救急で運ばれたらしいが原因は何だったんだ」
「…っ、原因ははっきりしていません」
尋ねられた医者は不破の態度にムッとした様子だったが、それでも真面目に答えていた。
「今の彼は昏睡状態。簡易的にですが血液検査をおこないわかったことは……フェノバルビタールという、いわゆる睡眠薬と同じ成分の陽性反応が出たことです」
「…ならあいつが倒れたのは、睡眠薬の副作用ってことか」
「……いや」
「…?」
重たい表情で首を横に振る。
そして言い難そうに次の言葉を渋った後、花菜か消えた部屋の入り口を静視したまま腕を組んだ。

