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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第20章 溺れた兄妹


「兄とは、あの青年のことだったか……」


ボソリ

不破の隣で医者の男が呟く。

エントランスで花菜に捕まった彼は偶然にも、救急で運ばれてきた伊月を診た当人らしい。

「……で?」

不破はその医者に、いつものように敬語も使わず不躾に、伊月の事を尋ねる。

「何があった?救急で運ばれたらしいが原因は何だったんだ」

「…っ、原因ははっきりしていません」

尋ねられた医者は不破の態度にムッとした様子だったが、それでも真面目に答えていた。

「今の彼は昏睡状態。簡易的にですが血液検査をおこないわかったことは……フェノバルビタールという、いわゆる睡眠薬と同じ成分の陽性反応が出たことです」

「…ならあいつが倒れたのは、睡眠薬の副作用ってことか」

「……いや」

「…?」

重たい表情で首を横に振る。

そして言い難そうに次の言葉を渋った後、花菜か消えた部屋の入り口を静視したまま腕を組んだ。

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