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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第20章 溺れた兄妹
仕方がないので首を動かす。
「……ッッ」
「…ハ、ナ………?」
すると、自分の顔を覗き込む彼女の顔が──
くたくたに泣き疲れて瞼も頬も真っ赤にしている顔が、すぐ近くに。
興奮と嘆き…安堵と驚きがごちゃまぜになったその顔は、この部屋の無機質な色を背景に、あまりに鮮やかすぎた。
「……これ は………夢かな」
安息とはかけ離れた鮮やかさ。
「お兄ちゃん…!? 気づいたッ…の…!?」
「君が…見える…──これは 現実? ……僕は……生きてるのか、それとも………死んだのかい……?」
「死んでなんかないよ!お兄ちゃんは…ッ…死んだりしないよ…!!」
「…………そぉ」
「死んでなんか…ッ…ないよ…」
「──…そう…だね」
彼は──伊月は、咄嗟に花菜の頬に触れようとした。
情景反射のようなもの。
けれど反対側の手にも同じようにベルトが巻かれて動かせられなかった。
さすがに少し苛ついた筈だが、花菜の前でそんな表情を見せるわけにいかない。
だから代わりに、文脈のない微笑みを貼り付ける。
これだってもう情景反射だ。
何年も前に、身につけた。