この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第21章 眠り姫の呪い
外した視線のその先に──彼女の兄が立っていた。
「お兄ちゃん…っ」
「花菜、お待たせ」
妹の名を呼んだ後、廊下を歩いて二人へ近寄る。
周囲の男子より抜きん出た長身の彼は、履き慣れないスリッパに苦戦しながらも長い足で颯爽と歩く。
彼のほうに振り返った花菜の声がうんと甘くなり、こちらへ辿り着くのも待てずに彼女は走って行った。
不破が見ている前で二人が向かい合う。
伊月を見上げる花菜の目はもう死んでいなかった。
「先生との話はどうなったの?」
「高校中退の件はちゃんと伝えたよ。まー、すごく戸惑ってるみたい。とりあえず君を呼んでくるように言われたから、職員室横の進路相談室に行っておいで」
「今から?」
「そう。今から」
「うええ、怒られるのかな…」
「ハハ、そうかもね」
花菜と伊月──二人の口調はいたって普通で、自然。
だからこそ不破から見れば不自然だった。
「じゃあ行ってくる」
「僕は校門で待っておくよ。先生の話が終わったら帰ろう」
「うん!──あ、ちゃんと覚えてる?ケーキ屋さんに…」
「勿論さ。帰り道に寄るんだろう?一緒に食べようね」
「ふふっ」
花菜の雰囲気が、途端に生き生きと輝き出す。
スカートを広げて回った花菜は廊下の突き当りまで危ない足取りでフラフラと走り、角を曲がって見えなくなった。