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溺愛 ~ どうか 夢のままで ~
第4章 発芽
それが今はどうだろうか。
ほんの少し前の出来事でありながら、もう彼にとっては終わったことに変わりなく、関心はすでに別の場所に移っていた。
花菜に関心が移ったわけじゃない。
かと言って、手にある本に移ったわけでも…ないように見える。
「……ゴク」
花菜は唾を呑んだ。
緊張したとかでなくて、圧倒された感覚に似ている。
ダルそうなその男からそれこそ覇気なんて出ていないが、彼女が今まで対面したことのない空気をまとっているのだ。
本を読む彼は片手でポケットから煙草を取りだし、顔の横にかかげて口を開いた。
「火、貸せよ」
「はぁ? …ったく仕方ねぇな」
彼に言われて、こちらの男は花菜の腕を離した。
突き飛ばすように彼女を解放してから、ライターを手にフェンスのほうへ戻っていく。
出口への道をふさいでいたもうひとりも、その後ろを付いていった。